Natural Earth 5.1.1 / 各国視点版 32枚を重ねる

対馬は、韓国の地図では
韓国になっているのか

なっていない。32枚すべてが対馬を日本と描いている——韓国自身の視点版を含めて。 かわりに、日本と韓国の地図が本当に重なっていた場所が150km 東にある。竹島/独島だ。 同じやり方で世界中を総当たりしたところ、2国の「自国」が物理的に重なる場所は17か所あった——ただしこれは総数ではなく下限で、 その理由は官製地図と照合した節にある。

重なっている17か所

円の大きさ=重なりの面積(対数)

31か国の視点版地図から「その国が自国と描いている領域」を取り出し、465通りの組み合わせで交差させた。 面積 0.01km² 以上で重なったのが下の17か所。円をクリックすると下の閲覧画面に移動する。

地図を並べて見る

同じ窓を、各国の地図で描き直す

左で場所を選ぶ。右にはその範囲を各国の地図がどう描いているかが並ぶ。 斜線の向きが国ごとに違うので、最後の「重ねる」面では、両方が自国と主張する領域だけが格子模様になる。

32枚での帰属

1点を打って、全地図に問い合わせた結果

代表点を1つ決め、32枚それぞれに「ここはどの国か」を尋ねた。 同じ場所が何通りに割れたかが「割れ」の欄。赤い札は1枚だけが違うことを言っていることを示す。 点線の札は、その地図がそこをどの国にも塗っていない(空白のまま残している)という意味。

官製地図と照合する

出したものは当たる/出していないものが多い

ここまでが読んでいるのは各国の官製地図ではない。Natural Earth という民間データによる再現である。 実際の政府見解・法令と突き合わせると、ずれの向きがはっきりしている。

取りこぼし
政府は主張しているのに、重なりとして出てこないもの規模官製の根拠と、NEの描き方
アルゼンチン × イギリス(南極)チリの主張とも三重に重なる 965,000km² 陸のみ アルゼンチン南極領土は西経25°〜74°、英領南極地域は西経20°〜80°。亜の主張は英の主張に完全に内包されるNEの視点版には南極大陸が1枚も入っていない。したがって原理的に検出できない。
韓国 × 北朝鮮朝鮮半島全域 121,237km² 大韓民国憲法第3条「大韓民国の領土は、韓半島及びその附属島嶼とする」。北朝鮮憲法も同様に半島全域を扱う。NEの韓国視点版は北朝鮮を北朝鮮として描く。北朝鮮の視点版はそもそも存在しない。
ロシア × ウクライナ(4州)ドネツク・ルハンスク・ザポリージャ・ヘルソン 約110,000km² 2022年9月30日にロシアが併合を宣言。検出できているのは2014年のクリミア 27,095km² だけ。NE 5.1.1 の配信日は2022年5月13日。宣言に4か月間に合っていない。
ネパール × インドリンピヤドゥラ・リプレク・カラパニ 335 のうち 60km² / 捕捉率18% ネパールは2020年5月20日に新政治地図を公表し、6月18日に憲法へ編入(下院258名全員賛成)。追加された主張は335km²。NEのネパール視点版が描くのは60km²のみ。方向は合っているが5分の1以下。
中国・台湾 × フィリピン等黄岩島(スカボロー礁)、九段線 計上不能 中国は黄岩島を領有主張し実効支配している。九段線は南シナ海のほぼ全域に及ぶ。NEの中国視点版は黄岩島を中国と描かない。加えてこのツールは陸地だけを扱うので、海の主張は構造的に写らない。
誤検出
重なりとして出たが、実際には決着しているもの規模官製の根拠と、NEの描き方
エジプト × サウジアラビアティラン島・サナフィル島 90km² 2017年6月14日にエジプト議会が可決、6月24日にシシ大統領が批准し、両島の主権はサウジへ移った。NEの両視点版はまだ重なったまま。5年古い。

1か国に絞って総当たりすると、この偏りが具体的に見える。日本の陸地の重なりは 南千島 4,930km²(対ロシア)、尖閣 3.75km²(対中国・台湾)、竹島 0.03km²(対韓国)の 3か所で、下の5通りを通しても増えなかった。

日本の主張 ∩ 他31か国の自国主張(面積の下限を撤廃)交差するのは露・中・台・韓の4か国のみ
日本視点が ISO 中立版より多く塗る面積4,934km²。内訳は 4,930+3.75+0.03 で全量が既知の3か所
ISO 中立版が日本とする場所を、日本と描かない地図0件
日本視点より広い日本を描く地図0件(日本の地図が最大)
日本の島18か所を32枚に照会沖縄・与那国・南鳥島・小笠原などすべて 32/32 で日本

それでも写っていないものが4つある。すべて海か、視点版そのものの欠落である。

日本について、このツールに写らないもの規模中身と、写らない理由
沖ノ鳥島(対 中国・韓国)島か、岩か 約40万km² のEEZ 岩そのものの所有は争われていない。争点は国連海洋法条約121条3項——「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩」はEEZを持てない——に当たるかどうかで、日本は島、中国は岩とする。島とした場合のEEZ約40万km²は、日本の国土面積 約38万km² を上回る。Natural Earth の32枚すべてに載っていない。日本の島を18か所照会して、唯一どの地図にも存在しなかった地点である。
東シナ海の EEZ・大陸棚(対 中国)境界未画定 計上不能 日本は中間線、中国は沖縄トラフまでの自然延長を主張する。主張が重なった帯がそのまま未画定で残っている。陸地だけを扱うので構造的に写らない。九段線と同じ理由。
日韓大陸棚共同開発区域(対 韓国)JDZ・第7鉱区 計上不能 1974年署名・1978年発効の南部協定。中間線を主張する日本と自然延長を主張する韓国の、主張が重なった区域を共同開発とした。最低有効期間50年で2028年6月が期限。同上。重なりが実在するからこそ共同開発になった区域が、陸地データには現れない。
北朝鮮視点版が存在しない 計上不能 北朝鮮も竹島を自国領としている。日本との重なりは韓国と同じ場所で成立するはずだが、片側の地図が無い。視点版があるのは31か国だけ、という制約がそのまま出た例。

向きは一方に偏っている。検出した17件はいずれも実在の係争に対応していて、架空の重なりは1件も無かった。 一方で取りこぼしは少なくとも5件あり、そのうち最大の1件(南極、陸965,000km²)だけで、 検出した2位以下16件の合計 470,584km² の2倍を超える

つまりこの17件は総数ではなく下限である。「重なりが無い」を「争いが無い」と読んではいけない。 使い道は、当たりを付ける検出器としてであって、係争地の台帳としてではない。

冒頭の対馬の結論が保つのは、Natural Earth が正しいからではない。 韓国政府の実際の立場を別に確認したからである——1949年に李承晩大統領が言及したものの、 1965年の日韓基本条約に至る過程で取り下げられ、現在どちらの政府も公式には主張していない。 32枚が一致したことは、その裏付けであって根拠ではない。

海の重なり

陸で17か所、海で35か所

前節で「海の主張は構造的に写らない」と書いた。データセットを替えれば測れる。 Marine Regions(フランダース海洋研究所)の Maritime Boundaries v12 は、EEZ のレイヤの中に 重複主張共同管理区域を独立した地物として持っている。陸と同じ問いを、そのまま海に投げられる。

まず、どこまでが何なのか

EEZ は「その国の海」ではない。領土といえるのは領海までで、EEZ は主権ではなく 資源についての主権的権利が及ぶ範囲である。ここが最も混同されやすい。

区分基線からの距離何が及ぶか
内水基線の内側完全な主権。港湾や湾内など。
領海12海里 / 22.2km主権が及ぶ=領土と同じ扱い。ただし外国船には無害通航権がある。
接続水域24海里 / 44.4km通関・出入国管理・衛生・財政の4分野に限って取締りができる。
排他的経済水域(EEZ)200海里 / 370.4km主権ではない。資源の探査・開発・保存の権利が沿岸国にある一方、航行・上空飛行・海底ケーブル敷設は他国も自由。
大陸棚200海里 / 条件により350海里海底とその下の資源。200海里を超える延長は国連の大陸棚限界委員会(CLCS)の審査を経る。
公海それ以遠どの国のものでもない。

数はどうか

海の重複主張は 35か所・合計 4,270,170km²、これとは別に、線を引けずに共同管理としている区域が 21か所・合計 377,046km² ある。陸の17か所(9,955,397km²)は中国・台湾の1件で9,484,814km² を占めるので、 それを除いた 470,584km² と比べると、海の係争は陸のおよそ9倍の広さになる。

日本の場合、海は陸の何倍か

陸で見つかった3か所は、海でも同じ3か所が立っている。ただし桁が違う。 (陸は各国が公表する実面積。Natural Earth の簡略化ジオメトリではない。)

国が小さな岩を争うのは岩が欲しいからではない、という一般論は、この比で具体的な数になる。 なお日韓には、線を引けずに共同開発区域とした 82,610km² がある——陸に対応物を持たない、海だけの重なりである。

海域データ: Flanders Marine Institute (2023). Maritime Boundaries Geodatabase, version 12 (MarineRegions.org、CC BY 4.0、科学・教育・研究目的)。 境界は法的拘束力を持つものではなく、同研究所による整理である。取得日 2026-08-30。 なお沖ノ鳥島は、このデータでは重複主張として立っていない(日本の EEZ に含めて描かれている)。

作り方と、信じてよい範囲

同じ調べを小学校中学年向けに書き直した版もある——地図をかさねてみたら。 色紙を重ねる見立てで、青と黄をかさねると緑になる、という形にしてある。

データ

Natural Earth 5.1.1 の 10m Admin 0 – Countries, point-of-view 一式。 アルゼンチン、バングラデシュ、ブラジル、中国、ドイツ、エジプト、スペイン、フランス、イギリス、ギリシャ、 インドネシア、インド、イスラエル、イタリア、日本、韓国、モロッコ、ネパール、オランダ、パキスタン、 ポーランド、ポルトガル、パレスチナ、ロシア、サウジアラビア、スウェーデン、トルコ、台湾、ウクライナ、 アメリカ、ベトナムの31視点+ISO中立版の計32枚。

計算

各視点版から SOVEREIGNT がその国自身の面をすべて結合して「自国の主張」とし、 31か国の総当たり465組で交差を取った。面積は等積図法(ESRI:54034)で測り、 0.01km² 未満は捨てた。竹島/独島の 0.03km² が下限すれすれで残っている。

これは公式地図ではない

Natural Earth は民間のデータセットで、各視点版は「その国はこう描くだろう」という第三者の再現にすぎない。 日本政府や韓国政府が発行した地図そのものではない。実際にどれだけ食い違うかは前節で測った。 配信日は2022年5月13日で、それ以降の変更(ロシアの4州併合宣言など)は入っていない。

写らないもの

  • 視点版があるのは31か国だけ。ベネズエラ/ガイアナ、スーダン/エジプト、シリア/イスラエルなどは、片側の地図が無いので重なりとして出てこない。
  • 陸地のみ。EEZ・領海・大陸棚の主張は入っていない。南シナ海の九段線もここには写らない。
  • 10m 精度なので、竹島・尖閣・南沙などの岩礁は分解能の限界に近い。
  • 「主張」と「実効支配」は別物。ここで測ったのは前者だけ。
  • 官製の世界地図は多くの国が画像・PDFでしか出しておらず、機械可読なベクタで揃わない。 各国視点版データが存在するのはそのためで、代わりにはなるが原本ではない。